フライデー(1984年11月30日発行)

 

★以下、本文からの引用★

富士・青木ヶ原樹海の首つり現場
脚は野良犬に食いちぎられて

松本清張「波の塔」でブームとなった
自殺の名所には今も100体が眠るが

 「・・・・・・そこに立って湖を眺めると、対岸が茶褐色の溶岩だった。
樹林がその上に立ち、それから裾野の方まで果てしなく海のように
広がっていた。・・・・・・・この中に迷い込むと死体も発見できない・・・・・・」
 松本清張の長編ロマン「波の塔」の一節である。主人公の人妻は
少壮検事と不倫の恋におちいり、あげくは死をもって精算しようと
富士五湖のひとつ、西湖に近い”青木ヶ原樹海”に消えていく----。
 この小説が25年前に発表されて以来、富士の裾野に広がる原生密林は
自殺の名所となってしまった。が、しかしである。その死は、むろんのこと
決してロマンチックなものではない。樹林の中は湿度はあくまでも高く、
遺体の腐蝕が予測以上に速いのだ。
 右の写真をご覧いただければ一目瞭然----。この白骨化した首つり死体
でさえ、ここ2年の間でもっとも原形をとどめていたものなのだ。
 「中年の男性。推定では死後6ヶ月経過」(地元の富士吉田署鑑識課)
というが、上半身だけで下半身がない。これは飢えた野犬の仕業らしい。
それにしてもクビが異常に長くはないか?しかし、実際に測ってみれば
長さは20p、肉が落ちたので長く見えるだけと、鑑識課は”鑑定”する。
 樹海を管轄する富士吉田署(山梨)では毎年、地元消防団員などの協力を
得て、自殺遺体を収容するために大捜索作戦を展開している。
今年は先月16日、総勢679名が樹海に分け入り、5体を収容した。
 署員によれば、いまでも少なくとも遺体は100体あるというが、溶岩帯の
上に腐葉土や枯れ草が積もる樹海の中は、歩きにくく足許を確かめるのが
精一杯。”捜索”どころではないのが現況のようだ。しかも報告感覚が
まったく失われ、地元の団員ですら「あれ、ここは30分前に通ったところ
じゃないか」といいだすシマツなのだ。
 この捜索活動は昭和46年から続けられていて、その間発見された”死体”
はいままでに95。51年以降のデータでは5対1となぜか男が圧倒的に
多いのだ。男への恨みつらみで自殺する女は、死後発見されにくい場所を
選ばない----こう”分析”するのは深読みのしずぎだろうか?
 警察庁の『昭和58年度中における自殺の概要』によれば、昨年自殺した
人間はぜんぶで2万5000人。動機は「病苦」が41%とダントツ。
サラ金などの「経済苦」は15%と意外に低い。自殺の手段は、写真の男性
のように、「首をつる」ものが57%と過半数を占めていた。
 ともあれ富士吉田署では、『呼びかけ』と題したパンフレットを樹海周辺
10箇所に置いて、”防止”につとめている。減り方は「思ったより早い」と
署員はいうけれども・・・・・・。

PHOTO 有泉徹也

1984年(昭和59年)11月30日発行

株式会社 講談社

定価 150円

毎週1回金曜日発行

第1巻第2号 

 

★感想★
 「FOCUS」のライバルとして1984年11月23日に創刊された「FRIDAY」の創刊2号。
創刊1号では割腹自殺した三島由紀夫の生首が掲載され、創刊2号では
この青木ヶ原樹海の首吊り死体の写真が掲載されました。

 思わず目を背けたくなるような腐乱死体ですが、非常に力強い写真です。
そして青木ヶ原樹海の真実を伝えるという意味においても、非常に意義深いです。
残酷なものは全て悪でなく、人間の想像力が欠如しがちな現代においては、
目を背けたくなるような現実も伝えなくてはいけないという、写真ジャーナリズムの
意志の強さを感じます。
 日航機墜落事故(1985年8月12日)以降、日本の写真誌では過去の発掘写真以外
での日本人の死体を掲載する事がなくなりました。それはこの事故の報道合戦の
なかで、多くの死体写真が各メディアに登場し、それが遺族の猛反発を受け、
各メディアはその過熱報道の行き過を反省し、その結果日本人の死体写真に関しては
自主規制をおこなうようになったからです。
 その結果、死に対してロマンチックな幻想を持った人達を増やしてしまったような
気がします。何度も言いますが、樹海での死はこの写真のように残酷その物です。
 しかし未だにテレビの報道番組などでは、樹海内の自殺遺体を発見しても、
モザイクで修正し、そのまま放映しません。これでは残酷な現実が視聴者に伝わらず、
いたずらに青木ヶ原樹海の知名度だけを上げ、自殺が一向に少なくならないと思います。
テレビには、その現実を伝えるために、自殺遺体を修正無しで放映して欲しいものです。
 余談ですが一斉捜索が中止になったのも、その模様がテレビで報道された後に、
決まって自殺遺体の発見数が増えるという事がその理由だそうです。
一回の一斉捜索で見つかる自殺遺体は5体〜10体ぐらいらしいです。何百人も
動員し、費用を出し、それをマスコミが報道し、その結果自殺の名所としての知名度が
あがり、自殺者をさらに呼び込んでいるというのです。これでは本末転倒ですね。
★補足★
 ちなみに記事中に下半身は野犬に食い散らかされてとありますが、私はこの
よく言われる、樹海の遺体は野犬に食い散らかされているというのには疑問を
感じます。青木ヶ原樹海には川も池もありません。(以前はあったようですが)
その様な過酷な状況で野犬が集団で生き残っていけるとは思えないのです。
今から30年以上前、樹海に都会から犬や猫を捨てに来る事が問題になったそうです。
その結果、多くの野犬野良猫が薬殺駆除されたようですが、はたして今でも野犬は
存在するのでしょうか?
 私は10年ほど前、富士山中湖の湖畔で野犬の集団に出くわした事があります。
しかし青木ヶ原樹海では一度も野犬の集団を見た事がありません。
いたとしても広い樹海の中で彼らの食料である自殺遺体に出会う確率は低いように
思います。
 一方、ネズミは数多くいるようです。
 以前、耳がかじられ、頬を食われ口の中が見えてしまっている自殺遺体を樹海内で
見た時に、その頬の中にはネズミの糞が溜まっていました。
野犬が食いついたような跡はありませんでした。
ですからこの遺体の下半身も腐った後、地上に落ち、虫やネズミに食い尽くされ無く
なったのでしょう。

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