波の塔

1974年(昭和49年)9月初版発行

著者 松本清張

出版社 文藝春秋

定価 上巻543円(税別)
    下巻514円(税別)

※この本は1959年(昭和34年)5月〜
1960年(昭和35年)6月の間に女性自身で
連載されたものを文庫化したものです。

 

★あらすじ★
正義感溢れる若い検事と、美人で品が良いハイソサエティーな
既婚女性の不倫の恋を描いた暗いラブストーリー。
運命的に二人は出会い、その後、社会の波に翻弄され彼らの
意志とは無関係に二人は追いつめられていきます。
そして最後はヒロインが樹海の中に一人消えて行き物語は終わります。
★感想★
 「波の塔」は女性自身で昭和34年5月〜昭和35年6月の間連載され、
好評を博し、その後テレビドラマや映画にもなりました。
しかしその影響で青木ヶ原樹海は全国的に有名な自殺スポットにも
なってしまいました。
 実際に樹海に触れているのは前編で一カ所、あとは後編の最後だけ
なので、樹海に興味があるだけで読み進むには根性がいります。
しかしその苦労を感じさせないぐらい本作はおもしろいです。
 これを読んで樹海で自殺したくなるという心理は分からないでもありません。
ただやはり、現実は小説と違います。小説の中で美しいヒロインは樹海の中へ
消えていきロマンチックな最後を向かえますが、現実は惨たらしい限りです。
もし文章に続きがあるならば以下のようになっていたでしょう。
 
----頼子はどれぐらい歩いただろうか。この暗い森の中に入ってから
だいぶ時間が経つ。歩いて動いたせいか薬がだいぶ効いてきたようだ。
もう奥の方まで来ただろう。この辺りならば誰にも見つからず、静かに
死ねるに違いない。歩くのも疲れた。意識も次第に朦朧としてきている。
小野木さん・・・。薄れゆく意識のなか頼子はそうつぶやいた。
目を閉じると、東京駅で頼子を待っている小野木の姿が浮かんだ。
そして頼子は森の窪みに崩れ落ちた。
----それから数週間後、頼子の体は腐っていた。蠅がたかり蛆が体中に湧き
魚が腐ったような異様な臭気を放っていた。あの黒目がちの美しい瞳も今や
落ち窪み、眼球はすでに無くなっていた。白い肌でさえ黒く変色し、体の所々を
野兎を初めとする鳥獣に食い散らかされていた。
今の頼子には生きていたところの美しさは微塵も感じられなかった。
ただ臭くて汚い、化物の様な姿に成り変わっているだけだった----。

と、稚拙な文章を勝手に創作してしまいましたが、ここまで陰惨な文章を著者が
書いてくれていたら、ロマンチックに死にたいと思う自殺者が大挙して樹海へ
押し寄せる事もなく、その後自殺者は増えなかったような気もします。
 「波の塔」が書かれてから30年以上経ちます。私はこの1年間樹海を探索
しましたが、本作を持っていた自殺者を見た事がありません。また樹海の中に
落ちている遺留品の中で本作を見かけた事もありません。
現代において本作には樹海での自殺に直接的な原因は無いように思われます。
本作については樹海で自殺が広がる契機となった程度の認識で良いかも
知れません。
★補足★
 推測ですが、以前、樹海で自殺遺体の一斉捜索がおこなわれていた際、
捜索がおこなわれた場所は富岳風穴付近と、風穴と西湖を挟んだエリアでした。
なぜこの場所で一斉捜索がおこなわれるのかと思っていたのですが、
本作でヒロインは西湖側から樹海へ入っていました。
そのせいで自殺遺体はあの辺りに集中するようになり、一斉捜索もそのエリアで
おこなわれる慣習が出来たのではないでしょうか。

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